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人工知能 vs 雑草。マルチスペクトルカメラによってインテリジェント農業に「知性」がもたらされる方法

作成者: JAI|3月 4, 2020

近年、精密農業やインテリジェント農業が急速に進歩しています。この分野では、どうやって雑草を駆除するかという問題がますます重要になってきています。雑草は、作物に寄生する有害な存在です。栄養素や水分を土壌から吸収してしまい、圃場のスペースを使って成長するため、作物の生育が抑制される恐れがあるのです。

従来の除草方法は、雑草が圃場に均一に分布しているという前提で、除草剤が使用されていました。しかしほとんどの場合、雑草はその時々でスペースを見つけながらランダムに成長して行きます。農作物が栽培されている圃場の中でランダムに分布している雑草だけを見つけ出すのは、現実的には困難な作業と言えます。

もちろん、ロボティクスや機械工学の分野でもさまざまな開発が進んでおり、遠隔操作された機械式の雑草駆除車両を用いて、ロボットアームが雑草を正確に引き抜くことができるようもなったのも事実です。ただし、このようなシステムであっても、車両を制御して、雑草を特定し、ロボットに引き抜く指示を出す、という依然として「人間によるモニタリングと指示」が介在しなければならないという根本的な課題は未解決のままです。

しかしようやく最近になって、マシンビジョンやディープラーニング、AIの進歩により、これまでの雑草駆除システムでは人間が司っていた部分をAIに置き換えようとする動きが出てきました。その部分とは、インテリジェンスデータ(画像)のキャプチャと、そのデータに基づく意思決定という「知性と判断」が求められるプロセスです。

AIシステムが地面からオブジェクト(対象物=この場合は雑草)を除去するかどうかを決定するには、まずオブジェクトを光学的に識別するだけでなく、それが雑草なのか作物なのかを分類する機能も必要になります。通常、雑草と作物は異なるスペクトル特性を持っています。正確な分類を容易に実行するには、適切な種類の画像を光学センサから確実に提供してくれる「マルチスペクトルカメラ」の存在が不可欠となるのです。

マシンビジョンカメラは、機械学習に使用できるシナリオに沿ってリアルタイム画像を提供してくれます。この場合における最大のメリットは、簡素化された非常に低コストの光学センサを用いて、高解像度なデータではなかったとしても、十分なスペクトルデータを取得できることです。一方、マシンビジョンカメラの課題として、除草用途に関連する限定された帯域幅だけで重要となる「マルチスペクトルデータ」を取得するには役不足である点です。

マルチスペクトルを機械学習に用いる場合、これまでの方法を用いるなら、複数のマシンビジョンカメラと光学フィルタを駆使することで、それぞれのカメラに別々の特定波長の光を当てることで、異なる波長帯域の画像をそれぞれ別のカメラで捉える方法がありますが、このようなシステムでは、複数のカメラを正確にアラインメントするために設置調整が難解になり、また複雑なデータ処理に伴うトータルシステムで考えた場合のコスト増加という問題も抱えています。

とくに雑草駆除は屋外作業のため、風雨や防塵など光学システム部分には高い堅牢性も求められます。このような厳しい環境下では、複数のカメラを光学的に正確にアラインメントして使用するというのは現実的に考えれば不可能と言えるでしょう。光学的なアラインメントのずれが、さまざまな形で、それぞれのスペクトルを捉える画像に現れてしまうと、不正確な機械学習につながり、AIにディープラーニングさせることで完全無人化しようというプロセスそのものの有効性をすべて無駄にしてしまいかねません。

雑草駆除に求められる画像スペクトルの帯域幅は、ディープラーニング/AIの方式によって異なります。RGB画像ベースのシステムでは、RGB画像と、同じ画像をグレースケール分解した画像の間に生まれる相対的な色の差分が使用しています。しかしながら、RGB画像をベースにした場合、AIの処理は、葉の向きや日光、植物の質感、張り出している車両システムのキャノピーによる影響を受けてしまいます。このような場合にRGB画像とNIR画像を組み合わせることにより、RGBNIRの反射率の比を測定してNDVI解析することによって、雑草と作物を識別する精度が飛躍的に向上するのです。また土壌や枯れた植物といったオブジェクトの「背景」部分の反射率も異なりますので、やはりRGBNIRを組み合わせたディープラーニングの方が、正確さと効率性の面でAIの強化につながると言えるでしょう。

RGB画像に加えて、1チャンネルもしくは2チャンネルのNIR画像を捉えてくれるJAIの多板式のプリズムカメラがあれば、複数カメラの設置調整する時に高精度な光学アライメントを施すために腐心することもありません。システム車両が自立走行している間に、雑草駆除に必要な複数のNIR画像を一本の光軸から正確に分離されたマルチスペクトル画像をキャプチャしてくれるのです。

JAIの最新プリズム分光式マルチスペクトルカメラなら、人口知能を搭載した農業システムに要求される耐衝撃性、耐振動性、高低温などの過酷な環境条件でも動作する堅牢性も備えており、高速出力を可能にする10GigEインタフェースを搭載しています。高い伝送速度は一定時間内にカバーできる農場面積が広くなるという意味でもありますから、これからのインテリジェント農業・精密農業には欠かせない存在となるでしょう。高い出力フレームレートがあれば、AIで処理する場合でも十分に役割を果たしてくれます。

それは、解析に用いられるデータの「品質」が大きく変化してしまうと、機械学習で使用されるニューラルネットワークは非常に敏感なため、AIが間違った判断を引き起こす可能性が高まってしまいます。例えばハイスピードカメラは、日光や一般的な屋外の光が変化することによって、撮影条件が変わってしまい、結果的に画質にも影響してしまう可能性を低減してくれます。仮に昼間と夕方でそれぞれ1枚の画像しかキャプチャしなかった場合を想像してみてください。太陽光の違いによって別のオブジェクトとしてAIが認識・判断してしまうケースが容易に想像されます。ディープラーニングにとっては非効率であり、また誤った情報をディープラーニングしてしまうことに繋がりかねません。

一方、高速であればフレームがどんどんと送り込まれてくるため、機械学習中のAIにとってはこの上なく有利な条件と言えます。これを支えるバックエンドシステムが1GigEインタフェースをサポートしていなくても、通常のインタフェースボード(PCIe Gen410GigEなど)を介して、Nvidia Jetson Xavier製などの組み込みモジュールに接続することができます。


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