このところ、生命科学分野でカラー画像処理を利用するアプリケーションが増えてきました。蛍光顕微鏡の分野では、カラー情報の利用が特に重要です。異なる波長を放出する蛍光体を付加することで、異なるタンパク質やその他の高分子物質を同時にマッピングして研究することが可能になります。場合によっては、このような解析にも、グラフィックソフトウェアでフィルタ処理された複数のグレースケールの画像を異なるカラーチャンネルに割り当てる手法が今もなお使われています。しかしながら、最新のカラーカメラを使用することで、マルチカラー蛍光画像を1ステップで捉えることが可能になります。
特に生体組織では、良好なマルチカラー蛍光画像を捉えるうえでの障害の一つに、自家蛍光があります。自家蛍光は、ミトコンドリアやリソソーム、フラビン、ポルフィリン、クロロフィルなどの生体物質が主な要因となり、ほとんどの生体組織で発生する自然蛍光です。自家蛍光の分光感度は一般に広帯域で、Greenが主波長となります。
蛍光または燐光を利用して有機物質や無機物質の特性を研究する顕微鏡技術において、このGreenの自家蛍光は、対象となる構造以外の構造が可視化される原因となったり、画像全体のコントラストや鮮明さを低下させる高出力のバックグラウンド信号を生成したりと、蛍光造影剤の検出を阻害します。細胞培養培地が自家蛍光も放出できる細胞抽出物で構成されている場合は、さらに問題が複雑になります。
自家蛍光の影響を最小限に抑える方法の一つに、スペクトル項において画像内の色をさらに広げることが挙げられます。700 nmを超える波長では自家蛍光の影響が自然に低下するため、可視~近赤外領域(NIR)を越えて波長を放出する赤色蛍光色素の利用が適しています。これにより、画像における自家蛍光「ノイズ」からの干渉が少なくなります。
ATTO594やアロフィコシアニン、Cy5TM、ATTO 647N、DyLightTM 649、ATTO 655、Cy5.5TM、DyLightTM 680、DyLightTM 755、DyLightTM 800、ATTO 700など、いくつかの蛍光体は500 nm~700 nm間の光を吸収し、600 nm~1000 nm間の蛍光を放出します。これは、従来のカメラ技術用語で「赤色~近赤外領域(NIR)」と呼ばれる波長帯域です。
700 nm未満で発光を開始し、継続して近赤外領域(NIR)まで発光する波長帯域を持つ蛍光体は、マルチカラー画像でより赤色に特化した応答を生成するのに役立ちます。700 nm~1000 nmの発光波長帯域を持つ蛍光体は、近赤外蛍光色素(医療画像用語ではNIR-Iスペクトルとして知られています)として、より厳密に分類されています。また、近赤外線のエネルギーが物質により深く透過する点や、組織の厚みが増した場合でも画像のコントラストが優れている点など、従来の可視色素に比べていくつかの利点があります。
高度なカラー機能を備えた顕微鏡システムの構築する際は…
ぜひ「Tech Guide: 顕微鏡観察用カメラソリューション」を参考にしてください。さまざまなカメラ機能を利用して、貴社の装置用途の要件を満たす方法について詳しくご紹介しています。
赤色~近赤外領域(NIR)においてカラーカメラがより広い帯域に対応しない限り、顕微鏡関連画像処理システムの設計者にとって、カラーカメラで赤色~近赤外領域(NIR)の蛍光体を捉える方法は非常に限られます。顕微鏡で使用される単板式のカラーカメラのほとんどは、約700 nmか、それ以下の波長をカットするNIRカットフィルタを装備しています。これは、カメラがピクセル上のカラーフィルタパターンと補間処理を使って、周囲のピクセルの値に基づき各ピクセルの色を推定するためです。NIRフィルタが取り除かれ、近赤外光が画像内のRedピクセルの強度値に影響を与える場合は、補間処理の工程でほかのすべてピクセルの値が歪められてしまいます。その結果、これらのカメラで捉えられるのは、可視スペクトルの領域内に完全に収まる蛍光体に限定されることになります。
3板式のプリズム分光式カメラは、生命科学分野の用途で赤色に対して高い感度を必要とするアプリケーションに解決策を提供します。プリズム分光式カメラから通常のNIRカットフィルタを取り除くことにより、Redチャンネルの感度が約1000 nmに拡張され、可視領域と近赤外領域(NIR)をまたぐ蛍光体や、NIR-I領域に完全に収まる蛍光体からの応答性を高めることが可能になります。ただし、R/G/Bチャンネルは補間が不要な独立したカラープレーンであるため、この赤色に対する感度の拡張がほかのカラーチャンネルに及ぼす影響を最小限に抑えられます。
JAIでは、生命科学分野での顕微鏡観察市場向けに、特別に設計された3板式プリズム分光カメラを提供しています。赤色~近赤外領域(NIR)の波長帯域の感度を高めるために、RedチャンネルにNIRカットフィルタのないモデルも用意しています。
赤色に対する感度の拡張や生命科学分野向けカメラについては、ぜひJAIにお問い合わせください。JAIのプロダクトエンジニアがいつでもご相談を承ります。