紫外線とは
人間の目は、電磁波帯のごく一部である400nm(紫)から700nm(赤)までの波長帯、つまり「光」と呼ばれる部分のみを感知します。例えば、ミツバチは紫外線の感度で花粉を感知し、多くの動物は夜間に赤外線(体温)で獲物を感知します。しかし、人間は可視光線でない波長を「見る」には、特殊設計のカメラなどの外部機器を使わなければなりません。
赤外線カメラや双眼鏡は、人や動物の体温を赤外線として検知するため、多くの人々に利用されています。一方、紫外線は10〜400nmの波長域にあり、測定できる機器も少ないため、一般には馴染みがありません。
目に見えないものを探る
カメラは、「反射の法則」という物理の基本原理を応用して画像を作り出します。 可視光線や非可視光線の電磁波は、壁に投げつけられたテニスボールのように、「壁」に当たる角度によって反射します。
イメージングが可能なのは、表面を顕微鏡レベル(あるいはナノレベル)で見ると、ほとんどの場合、完全に平坦になっていないからです。それぞれの光線は反射の法則に従うものの、表面に凹凸があるために入射角が変化し、さまざまな方向に反射します。そして、その一部が人間やカメラの方に戻ってくる「乱反射」が発生します。
乱反射を起こす表面形状の大きさは、表面にぶつかる光の波長によって決まります。表面の凹凸が光の波長の約8分の1以下になると、その表面は研磨されたものと見なされます。そして、光線がすべて同じ方向に反射し、鏡面効果が生じます。この場合、表面の微細な凹凸は、人間の目やカメラからは見えなくなってしまいます。
紫外線は波長が短いため、波長の長い光では影響を受けないような小さな凹凸でも乱反射し、可視光で見えないほど小さな表面の特徴や欠陥を検出・検査することが可能になります。
短い波長は表面の微細な凹凸で乱反射する
表面の小さな凹凸が紫外線を反射する性質を利用した産業用アプリケーションが増加しています。例えば、マスク検査、ウェーハ欠陥検査、パターン欠陥の識別・分類などの半導体検査、ソーラーパネル検査などの用途です。
UV イメージングのその他の用途としては、特定のインクや素材が紫外線を吸収したり、UV スペクトラムで蛍光を発することを利用したものがあります。例えば、医薬品包装、パスポート、紙幣などの印刷検査、廃棄物の分別、材料の欠陥や不純物を検出するための非破壊検査、不正行為の検出や犯罪捜査のための蛍光分析、医療診断など、さまざまな用途に利用されています。また、高圧送電線のコロナ検査や、天文学、紫外線分光学などのさまざまな科学的用途にも使用されています。
以下の画像は、UVイメージング用途の例を示したものです。
図1は、電子産業におけるUVイメージングの使用例です。ウェハーの反射面にレーザー刻印されたコードを確実に読み取り、生産工程で各ウェハーの位置を特定・追跡します。これを行わなければ、生産が滞り、深刻な経済的損失を招くことになります。UVイメージングは、従来のマシンビジョンシステムでは不可能だった コードの読み取りを正確に行います。
著者:Mister_rf
図2は、半導体のアラインメントにUVイメージングが使用されている様子を示しています。UVイメージングは半導体製造の現場で、ウェハープロービング、ウェハーダイシング、リードフレーム検査、ダイボンディング、ワイヤボンディングを適切に行うために使用されています。
図3は、レーザー光の形や大きさなどの精度が、対象物に照射するエネルギーに影響を及ぼしていることを示しています。ビームの歪みは、光路の汚れ、組み立て時の誤差、環境要因などで発生するため、ビーム経路にUVカメラを挿入することで、ビームの各部の相対的な強度をマッピング・補正することが可能になります。
産業用UVカメラによるビジョンシステムの構築
今回ご紹介したような紫外線光学検査の需要が高まっていることで、紫外線(UV)イメージングカメラの応用範囲は大きく広がっています。UVイメージセンサ搭載カメラを使用したビジョンシステムでは、通常のカメラでは撮像することのできない特殊な視覚情報を得ることができます。一般的な産業用・科学用のUV対応レンズとUV照明を組み合わせたシステムから、レンズ、さらにセンサのカバーガラスさえも取り外して光学的歪みを最小限に抑えたレーザープロファイリングシステムまで、幅広く対応しています。
また、短波長の紫外線を画像化できるUVセンサの需要も高まっています。従来はUVA(320~400nm)と呼ばれる波長域が中心でしたが、近年の半導体の微細化に伴い、UVB(280~320nm)やUVC(~190~280nm)域で動作するセンサが求められています。現在では、200nm以下の波長に特化したシステムもあります。このようなUVCシステム(深紫外線もしくはDUVと呼ばれる)が市場を牽引していますが、UVBやUVAを扱うアプリケーションもまだ数多く存在します。紫外線領域の幅広い範囲にに対応できるUVセンサやカメラは、開発チームに大きな汎用性をもたらします。
例えば、以下の画像はJAIの GO-8105M-5GE-UV カメラモデルの感度を示しています。UVBとUVA領域では QE (量子効率) が約40-50%と高く、UVC領域でも十分なQEを持っていることが確認できます。このようなカメラは、天文学などの科学的研究に使われる高価な紫外線カメラに代わるものとして有用です。なお、カメラの分光感度特性は可視・近赤外領域にも及びますが、これらの領域ではPLS (parasitic light sensitivity)が最適化されないため、紫外線撮影には可視・近赤外光を遮断するフィルタを使用することが推奨されます。
GO-8105M-5GE-UVの分光感度特性
*感度は 200nm 以下もありますが、QE は測定されていません。
上記で示したように、このカメラは広い紫外域の分光感度特性を持つため、紫外域のマシンビジョンへの応用が期待されます。これは、半導体マスクの検査など、半導体検査装置を手掛ける企業に大きな機会をもたらします。例えば、半導体マスクの用途では、露光前にフォトレジスト剤が半導体上に均一に塗布されているかを、Goシリーズの最新モデル「GO-8105M-5GE-UV」を使用して検査することができます。このようなシステムは高価ですが、超短波長を使用してウェハーやマスクなどの表面の微細な特徴を明確にして欠陥を検出し、最高レベルの製造品質を保証するために欠かせないものです。OEMにとっては、UVC帯まで対応できる機能は非常に魅力的なものとなり得るでしょう。
GO-8105M-5GE-UVカメラでは、センサのカバーガラスを取り外すことができる「ガラスレス」バージョンもご用意しています。レーザープロファイリングなど、光路に紫外線対応の石英ガラスを使用することが難しいアプリケーションに適しています。
UVカメラは、産業や科学の分野におけるさまざまな用途に不可欠なものになってきています。紫外線画像は、生産工程における検査ツールとして活用されるようになりましたが、可視光や近赤外線を用いたマシンビジョンと比較すると、まだ発展途上の段階にあります。それでも、商用UVハードウェアの低価格化・多様化に伴い、UVマシンビジョンの分野は拡大しつつあります。
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