現在の画像処理システムには、カメラが持つ撮影と出力のフレームレートをリアルタイムで処理できるだけでなく、検査内容に従って、より高度で複雑な画像処理を常に正確に実行することが強く求められています。カラーカメラを使用したマシンビジョン・システムでは、RGBでキャプチャし、RGBのまま画像処理することが求められることが最先端とされていました。
イメージセンサにおいても同様に、長年にわたって、リニアリティ、感度、量子化効率、ノイズといった物理的パラメータの改善が続けられ、RGB色空間での画質は全体的に向上しています。RGB色空間では、Red、Green、Blueの3原色を混ぜ合わせることにより、幅広い色域を再現しますが、この領域は今もなお進歩しています。
マシンビジョン・システムにおける、最も高い色再現性が求められるアプリケーションの中には、人間の直観的な視覚を必要としない代わりに、RGB画像を正確に再現することが求められています。しかしながら、加色法モデルであっても、減色法モデルであっても、人間の視覚システムと同じ方法によって各色の相関を決めているわけではありません。つまりRGBによるカラーモデルから他のカラーモデルへと「色空間の変換」が行われているのです。
例えば1970年代に考案されたHSI(色相、彩度、強度)カラーモデルは、RGBカラーモデルに代わる色表現の方式です。人間は視覚によって色とその物体の属性を認識しますので、HSIカラーモデルは「人間の認識の仕方」に合わせるため、コンピュータグラフィックの研究者達が考案したものです。HSIカラーモデルでは、強度については画像内の色情報から切り離されて取り扱われますが、色相と彩度については人間が色を見るときの方法と密接な関係があります。従って人間の視覚システムに近い画像処理アルゴリズムを開発する際にはHSIを用いることが理想的なカラーモデルと言えるでしょう。
具体的にはHSIカラーモデルは、トゥルーカラー画像を処理するのに最適です。このカラーモデルを利用することで、画像内の特定の色だけを強調したり、ある特徴に基づく画像を切り出したり、オーバーレイなど画像を融合生成したり、色に基づいて画像内のオブジェクトや成分や物体を検出したり、あるいは画像認識、交通信号機の色判別、肌色の検出、といった画像処理をより効率的に実行できるようになります。またRGBカラーモデルを、より直感的な3次元カラーモデルに変換しますので、RGB色空間の色域では表現しきれない色、という本質的な問題を回避するのにも役立ちます。
ここで留意しておくべきことは、HSIはRGBを単に変換しただけなので、人間の視覚システムとは無関係にRGBのカラーキューブが維持されてしまうという点です。HSIなら、高速処理が必要な画像アプリケーションの大半に適していますが、「色の見え方の複雑さ」という人間の脳ならではの知覚・判断基準が無視されてしまうのです。HSIでは、「計算速度」と「知覚の複雑さ」がトレードオフの関係にありますので、目で捉えて知覚して判断するまでの間に生じる「人間であるが故のさまざまな判断パラメータ」をすべて取り除いているのです。さらに、HSI色空間はRGB色空間から「線形変換」されたものに過ぎず、絶対的な色空間ではありません。HSIカラーモデルは、ガンマ補正も含めたすべての特性を、RGB色空間を基準として文字通り「変換」しているに過ぎません。
マシンビジョン・システムでは、カメラからほかのデバイスへのデータフローを規定するために、PFNC(GenICam Pixel Format Naming Convention)という基準が策定されています。HSIなど「RGBではない色情報」と、RGBのピクセルフォーマットの相関を定義する一般的な規則です。このガイドラインに従うことで、従来とは異なるピクセルフォーマットを規定し、その「値」を処理するときに互換性を保つために、言い換えれば同じ再現性を維持するために役立つルールと言えるでしょう。
HISによるピクセルフォーマットは、2011年になってからこの規格に追加されました。色相は0°~360°で定義され、彩度と強度はともに0%~100%の範囲で定義されています。彩度と明度の表現は複雑ではありませんが、8bitでは0~255の値でしか表現できないため、色相の「360°」という値を表現することができません。したがって、値の半分は8bitで表現され、10bitでは2倍、12bitでは8倍で表現されます。RGBから「CIE-XYZ」や「CIE-Lab」へ、あるいはRGBからY・Cb・Crなどへの色空間変換にも、既に組み上げた同じロジックのまま実装することができます。
こうした「色空間の変換」は、冒頭でもお伝えした通り、後処理のホストPCによってロジックを組み上げることでリアルタイムで処理することができるようになっているのは事実です。しかし一方で、最近のJAIカメラの中には、この色空間変換を、カメラに内蔵されたマトリクステーブルに従って、カメラヘッドから出力されるときに、すでに変換を完了して出力できるモデルが取り揃っています。これまではマシンビジョン・システムの中でホストPC任せだったプロセスを、カメラヘッドが担うことに拠って、ホストPCのバスの帯域やCPUリソースの占有からわずかでも開放し、ハングアップするギリギリの状態でPCをフル稼働させるリスクを軽減したり、空いたリソースを他の画像処理に有効活用するなど、システムの自由度を向上させることに寄与できます。
詳しくは
下記にあげた、空間変換機能を備えたJAIカメラ製品の商品紹介ページもあわせてご覧ください。
Apex Series (3-CMOSエリアスキャン) |
Spark Series (1-CMOSエリアスキャン) |
Sweep Series (3-CMOSラインスキャン) |
Sweep+ Series (CMOSトライリニア) |
Apexシリーズカメラの一覧(すべてのApexシリーズカメラで対応) | SP-12401C-PGE SP-12401C-USB |
SW-4000T-10GE SW-4000T-SFP SW-4000T-MCL |
SW-4000TL-10GE SW-4000TL-SFP SW-4000TL- PMCL |
お問い合わせは
JAIでは、エリアスキャン用途とラインスキャン用途に、カメラ内でRGBからHSIへの色空間変換が可能なマシンビジョンカメラを提供しています。
色空間変換機能搭載のカメラおよび色空間変換処理についての詳細は、ぜひJAIにお問い合わせください。