ヘルスケア産業におけるマルチスペクトル・イメージング:マシンビジョンとスペクトル・スコープの融合

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医療分野における画像の応用は日々進化しています。高度なイメージング・デバイスとハイテクを駆使した画像解析の組み合わせによって、過去数十年の間に、人体を隅々まで可視化して臨床研究に応用することができるようになりました。以前から用いられてきた顕微鏡による観察から最先端技術による画像解析へとシステムも発達しています。さまざまに用途が異なる臨床におけるイメージング手法の最新トレンドを見ることで、今日の医療現場が抱える課題を解決するためにマルチスペクトル・イメージング(MSI)の採用がもたらす高い効果が見えてきます。今回のブログ記事では、MSIを用いることでアプリケーションごとに異なる特殊で複雑な課題に対して、画像を捉えるスペクトル・バンドを限定すればさまざまなソリューションへの応用が可能になるという事例を御紹介して行きます。

スペクトル・イメージングをライフサイエンス分野に応用する場合の基本的な考え方
顕微鏡や内視鏡検査ではイメージング技術が既に確立されています。例えば最新のRGB画像による内視鏡は、先端に取り付けたセンサによって、非常に小さな直径の孔から人体の奥深くまで入り込んで、高解像度な画像をキャプチャできるようになりました。錠剤ほどのサイズの小型カプセルに搭載したカメラを口から飲み込むことで、カプセルが消化器の中を移動しながら人体の中をキャプチャし、その画像を無線で飛ばして体外の録画装置で記録するというシステムも実用化されています。こうした機器の中には、センサと狭帯域スペクトルフィルタを組み合わせることで、より詳細な組織検査まで可能したシステムが登場しています。RGBによる内視鏡から生成された画像は、可視光が皮膚表面を透過できないため、キャプチャできるのは可視スペクトルに限定されますし、また人体の内部を捉えるとはいっても、各臓器の表面(最外層)までしか画像化できません。一方、マルチスペクトル・カメラを応用すれば、可視光領域以外のスペクトルも含めて、複数のスペクトル・バンドで同時に画像を捉えることができます。ヒトの細胞組織や臓器を検査する場合、近赤外(NIR)波長で画像を捉えれば、臓器の表面だけでなく、その中の奥深くにある細胞の状態までキャプチャすることができます。この技術が実用段階に入り、医師が人間の目では見えない「特定の組織だけ」に見られる「特有な状態」まで把握できるようになりました。


細胞組成などの本質的な特性や特定の状態を示す画像は、医師が患者を診断する際に有益な情報となります。一般的には患者を(あるいは患部を)画像で捉えようとする場合、生検を受ける必要がありますが、これには侵襲性があり、時間もかかりますし、また患者にとっても決して心地よいものではなく、患部以外の組織を傷めてしまう可能性があるなど、いくつかのデメリットも存在します。しかしマルチスペクトル・カメラを組み合わせることで、体内の細胞組織の特性を、周囲を傷付けることなくリアルタイムで可視化することができるようになるのです。人間の体内に入ってきた入射光は徐々に拡散され、また吸収されてしまいます。吸収された光は熱として変換されてしまう場合もありますが、フォトルミネッセンスとして蓄光または蛍光することをマルチスペクトル・カメラで捉えるシステムは、さまざまに応用されてきました。蛍光した状態を特定のスペクトルで捉えることができれば、ある特徴を持った細胞組織であることを裏付ける物理的な「フットプリント」であると判断できるからです。例えば健康な細胞組織から放たれる蛍光と、何かしらのダメージを受けた細胞組織からの蛍光では異なり、医療の世界では、この両者を明確に判別するための有力な手掛かりとして蛍光イメージングが活用されています。腫瘍によって引き起こされた悪性(または良性)の病変は、細胞組織に病理学的な変化をもたらしますが、その一つが、蛍光を放つ際の特性としても現れてくるのです。その様子や状態をマルチスペクトル・カメラでキャプチャすると、病変の部位を正確に特定する場合の「フットプリント」となります。また腫瘍細胞の代謝活性が増加していることを捉えるフットプリントとして「ヘモグロビン濃度の増加」がありますが、ヘモグロビンは発色する特性があるため、それをマルチスペクトル・カメラで捉えることができれば、代謝活性の増加を示す証拠(フットプリント)となり得るのです。

血液病理学での活用
血液病理学でもマルチスペクトル・イメージングの応用が進んでいますが、病理医が診断する際に必要とされる血液サンプル中に含まれる定量的かつ形態学的・分子学的な情報を、特定のスペクトルで捉えて可視化する技術が実現されています。明視野顕微鏡に用いられるようなイメージング技術では捉えられる画像が可視スペクトルに限定されていますが、マルチスペクトル・イメージングを組み合わせることで、可視光領域だけでなく、複数のスペクトルを用いた血液サンプルの検査が行われています。

外科手術の視覚補助システムとして活用される事例
外科手術の場面で執刀医の視覚を補助するシステムにも急速にマルチスペクトル・カメラの導入が進んでおり、今後の有望なアプリケーションと言えます。腫瘍の摘出は重大な手術を伴う複雑さがあり、その場に臨むすべてのスタッフに高度に熟練したスキルが求められます。執刀医がそれまでに手術した症例数の多さが摘出の成否を握る決定的な要因とされてきました。不確定な要素を含みながらも、スキルに委ねざるを得なかったのは紛れもない事実です。しかし最近では、マルチスペクトル・カメラを組み込んだ手術時の視覚補助システムが、経験豊富で熟達した外科医だけが持つ高度な技術や能力の一部を、システムが担ったり、または補助してくれるようになっています。蛍光する細胞組織を一定のスペクトルで画像として捉えることで、腫瘍細胞と周辺組織との目視による識別がより容易になり、「異変のある細胞や組織だけを切り離す」という高い技術を持った経験豊富な医師でなければ実施できなかった判断や技術を、特定スペクトルから得られる画像によって補助し、誰もが同じレベルの判断ができるようになりました。熟練した執刀医だけが持つこうした判断ができない場合には、患部だけでなく周辺組織も含めて大きめに除去することによって残った腫瘍が再び成長するリスクを回避していたのですが、摘出そのものが成功したとしても大きく切除することによる患者へのダメージは避けられませんでした。マシンビジョンによる視覚補助がこうした面でも貢献してくれています。

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マルチスペクトル画像が、特に外科手術の現場において高い付加価値をもたらしています。カラー画像とNIR画像をオーバーレイ処理することで、腫瘍と周辺組織を明確に判別しやすくなっています。実際の外科手術における視覚ガイドシステムでは、ICGを血管・組織・リンパ管に注入することで、ICGが持つ「特定のタンパク質だけに付着して滞留する」という特性を、一定のスペクトル画像として映し出し、悪性腫瘍であることを示す明確なフットプリント(証拠)としています。悪性腫瘍を捉えたスペクトル画像を、可視光で捉えた画像の上に重ねてリアルタイムのビデオ映像にすれば、執刀医は腫瘍/腺の位置を特定して除去しやすくなります。またRGB画像を用いて赤色成分を強調表示することで、手術中に傷付けることができない動脈・静脈などの主要な血管を直感的に認識しやすくし、また手術中の血流モニタリングにも応用しています。

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JAI3-CMOSマルチスペクトル・プリズムカメラは、1台のカメラで3つの異なるスペクトル・バンド(400700nmの可視カラーチャンネル、700800nmNIRチャンネル、8201000nmNIRチャンネル)を同時に撮影することができます。医療以外にもマルチスペクトルの応用は進んでおり、可視元素の検出には可視光画像を用い、同時にNIRバンドのスペクトル特性を使用して物質変性や材料欠陥を把握、2つめのNIRバンドを組み合わせることで、さらに異なる物質の変性や欠陥も分析するといった一連の工程をすべて同時に行うことができるようになります。


デジタル病理学:診断や疾患検出におけるイメージング活用
マルチスペクトル・イメージングはデジタル病理学、とくに診断および疾患検出においても大きな可能性を秘めています。日常の患者ケアや診断に使用されるカメラシステムには技術的な限界があったことは否めません。これまで医学の研究に使用されてきたスペクトル・イメージング装置の多くはハイパースペクトルが用いられてきました。非常に洗練された技術ですが、使用に際して操作や撮影環境の設定が複雑で、特に発展途上国や病気が蔓延している国々では、商業的な視点だけで見てしまうと、高額な装置のため導入可能な手段ではなかったかもしれません。そしてコスト効果が高く手頃な価格で実現できる医療用のスペクトル・イメージングのソリューションが求められていたのは、こうした地域に限ったことではなく、軽量でコンパクトなマルチスペクトル・カメラが登場したことで、ハイパースペクトルとは異なる新たな医療アプリケーションの開拓が模索されるようになっています。


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近年では「デジタル病理学」という言葉も登場するくらい病理学の分野でも画像の応用が普及しています。病理学では熟練した病理診断医が、ヒトの細胞組織やサンプルをスライド切片に載せて顕微鏡で見るというのが一般的なスタイルでしたが、デジタル化が進んだことで、スライドをスキャニングしてアーカイブしておくのが一般的になってきました。過去の症例をアーカイブ素材から高解像度のまま参照できるようになり、そこにカラー画像とマルチスペクトル画像を組み合わせた自動解析ソフトウェアが組み合わされて、大幅な効率化が図られています。

 

JAIのプリズム分光式によるマルチセンサ・カメラはライフサイエンス用途でも普及が加速しています
プリズムによって分光するJAIのマルチセンサ・カメラは、高解像度・高フレームレートであり、また単一の光軸から入射する光を正確に分離できることから、可視光スペクトルと近赤外スペクトルの同時撮影を可能にしています。医療用システムに組み込まれるイメージング・デバイスが必須で備えているべき高い堅牢性へのニーズにも応えられますし、特に耐衝撃性能・耐振動性能については、JAIのカメラはすべて性能評価試験を実施済みです。JAIのマルチスペクトル・カメラなら、すでに稼働している既存の内視鏡システムや顕微鏡システムなどのカメラ部分だけを取り換えて組み込むこともできますし、新しいビジョンシステムの開発に際して、カメラ部分だけを組み込むような場合でも、JAIでは大規模にOEM供給できる生産能力を有しています。


JAIのマルチスペクトル・カメラが持つ技術の詳細は、ぜひこちらもご覧ください。

無料テックガイド:「マルチスペクトル・イメージング」
医療用および産業用マシンビジョンシステムのためのマルチスペクトル・イメージングに関する無料のテックガイドをダウンロードすることができます
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ウェブキャスト:マルチスペクトル・アプリケーションへのプリズム分光式カメラの応用
マルチスペクトル・カメラの実現手法にはいくつかのアプローチがあり、どの方式を選択するかはプロジェクトの成否に関わる重要な要素です。マルチスペクトル・イメージングを必要とするビジョンシステムを設計されている方は、この無料ウェビナーをご覧いただくことでプリズム分光式のマルチスペクトル・カメラがどうして他のマルチスペクトルの手法よりも優れているのか、正しい理解を深めていただくことができます。
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