ウェブ検査などの用途では、被写体が絶えず動き続けているため、ラインスキャンカメラが適しています。このような用途では、印刷物や検査対象物を高速で移動させるため、スループットが重視されます。
しかし、ラインごとの撮影と高速移動が組み合わさると、十分な明るさの露光を行うことが非常に難しくなります。この問題に対処する方法の1つとして、ビニングというカメラ機能を利用するのです。
ビニングとは?
デジタルカメラでは、各センサの画素が露光中に受けた光量に基づいて、画像の輝度値を記録します。1ラインずつ画像を撮影するラインスキャンアプリケーションでは、この露光時間が非常に短いため、センサの画素がわずかな光しか取り込めず、細部が不明瞭な暗い画像となることがあります。
ビニングは、隣り合った2つの画素が捉えた光を1つの画素のように合成し、その画素値を出力するものです。例えば、1ライン4096画素のラインスキャンセンサでは、ビニングで2画素ごとに合成されることにより、解像度が半分(2048画素)、輝度が2倍のラインが出力されます。
センサの設計やカメラのビニング性能によっては、同じ処理を垂直方向にも行い、2つの画素を合成したものを次のラインの同じ画素2つと合成することもあります。この「2x2ビニング」で水平・垂直方向の解像度が半分、1画素あたりの輝度が4倍の「トールライン」が生成されます。
つまり、ビニングによって画素の有効サイズが最大4倍になり、それぞれの「仮想」画素が露光中に多くの光を取り込むことができるようになるということです。
トライリニアの例
ビニングの活用方法をご理解いただくために、JAIのラインスキャンカメラの運用例をご紹介します。ここでは、解像度4096ピクセルのJAI 4Kトライリニアラインスキャンカメラ(SW-4000TL)を例に挙げます。このカメラは、赤・緑・青の3つのフィルターを持つセンサラインで画像を生成し、1ラインのRGB出力としてデジタル合成します。
各ラインのベース画素は、7.5μm×7.5μmの正方形です。高速で移動する紙幣にカメラを向けたときにビニングをオフにし、ブレを防ぐために露光時間を速く設定すると、露光中に画素が十分な光を取り込めず、適正な露光が得られていないため、細部が判別できない暗い画像になっています。
JAIのトライリニアカメラはビニング機能を搭載しており、センサは各色2本ずつ、計6本のラインが隣接する構造になっています。つまり、ビニング機能は、水平方向(2x1)、垂直方向(1x2)、両方向(2x2)のビニングを行うように設定できるのです。
2x2ビニング機能をオンにして再試行すると、有効画素サイズが15μm×15μmになります。このように画素面積を拡大することで、同じラインレートと照明条件でも光量が4倍となり、明るく使いやすい画像を得られるようになります。1ラインあたり2048ピクセルという低解像度が許容範囲内であれば、ピクセルビニングによってスループットを損なうことなく、光量の問題を解決できます。
プリズムラインスキャンカメラのビニング
JAIのプリズムラインスキャンカメラはビニング機能をさらに進化させ、他のプリズムカメラと同様に、色ごとに個別のセンサを搭載しています。各センサは7.5μm×7.5μmの正方形画素を持つ2ライン、7.5μm×10.5μmの長方形画素を持つ2ラインの合計4ラインを備えています。各ライン間に隙間がないため、シングルラインでもデュアルラインでも、正方形や長方形の画素を読み取ることが可能です。
この構造により、水平ビニング、垂直ビニング、あるいは両方の組み合わせで8種類の画素サイズ・形状を作り出すことができるのです。水平・垂直方向のビニングを組み合わせて、正方形または長方形のいずれかを選択することにより、15 um x 15 umまたは15 um x 21 umの画素サイズが得られます。ラインスキャン業界最大級の画素サイズで、ラインレート、感度、シャッター時間などの厳しい条件が求められる用途にも柔軟に対応します。
ビニングは明るさだけでなくS/N比も向上させますが、これはさらに複雑なお話なので、別の記事で取り上げたいと思います。また、お問い合わせも受け付けております。
ピクセルビニング機能を使って画像の明るさを調整する方法については、以下のデモ映像をご覧下さい。
デモ映像