多板式プリズムに最適化したレンズとは?

Lenses

多板式プリズムカメラは、標準的な単板式センサカメラと異なり、1つのレンズの光路を介して複数のセンサからの異なる波長帯の画像を同時に生成します。このような多板式プリズムカメラでは、入射光を複数のチャンネルに分割しますが、ピクセル面に正確にアラインメントされ、対象物の動きや視野角によって画像が影響を受けることはありません。

レンズの役割

カメラで撮像を行う際、レンズはカメラシステムの重要な部分です。レンズは特定の角度でセンサへと光線の焦点を合わせ、環境の二次元的再現を生成するために使用します。カメラレンズは通常、素材、厚み、径、コーティングなど多数の要素で構成され、カメラや用途に応じてレンズが最適化され、価格も様々です。

多板式プリズムカメラでのレンズ選定は、適切な焦点距離、イメージ・サークル、予想されるフレームレートに充分な絞り、焦点深度、照明条件を考慮するのはもちろんですが、それ以上に、プリズムカメラに適したレンズを選ぶことが、重要なポイントとなります。その理由とは何でしょうか? センサには合っているはずの標準的な単板式のカメラ用に設計されたレンズを使用すべきではないのはなぜでしょうか?

プリズムは撮像にどのように影響するのか

その理由はいろいろありますが、まずは、レンズ後部とセンサの間にある分厚いガラスの部品(プリズム)が挙げられます。プリズムは、光の屈折の法則に従って、光路を変更します。このようなレンズは、可視光の短い波長(青色)から近赤外領域まで、広い波長帯で使用されるということです。全てのスペクトル領域に最適化したレンズを製造することは、複雑でコストのかかるプロセスです。また、技術の発達で、可視光や近赤外だけでなく、短波長赤外まで幅広いスペクトル感度を持つカメラが増えているなど、その課題は以前より多くなっています。

プリズムは、表面のダイクロイックフィルタにより、光を異なる波長帯に分離し、あらかじめフィルタを通した波長帯の光子だけが各センサに入射するようにしています。その結果、ベイヤーフィルタのセンサにより供給される色の分割と比べると、遥かに優れた効率で分割します。 ベイヤーフィルタでは度々、画像端部に偽色やぼやけたパターンなど望ましくない光学的アーチファクトが発生します。
How-the-prism-affects-the-lensベイヤー補正により発生した人工物 (モアレ)(左) 多板式プリズムカメラで撮った画像と比較(右)

あらゆる角度で

もう一つのプリズムカメラレンズの重要な検討事項はプリズムブロックへの光線の入射角をどのように制御するかです。

光は密度の低い媒体から高い媒体、またはその逆で通過する際、光は通常進む方向から遠くへまたは近くへ屈折するということは光の屈折の法則で明らかです。そして光がプリズムを通過するときの反応は、当然この法則に従います。プリズムブロックは、ダイクロイックフィルタを含めいくつかのレイヤーで構成されています。このようなフィルタは急峻な透過率の境界で正確に波長を分離しますが、光学的干渉に基づくもので、その挙動は当然ながら角度に依存します。つまり、入射角度によって、透過する光線量は変化するということです。これが画像の中でみられるカラーシェーディングが発生する原因です。入射角が多様であるほど発生するシェーディングも現れやすくなります。

Separation of light through R-G-B prism using dichroic filters
ダイクロイックフィルタ使用によるRGBプリズムを介した光の分離

そしてここでレンズ瞳孔部が重要になります。レンズの瞳孔部の入射部分と出射部分は、どのように光線がレンズに入って、出るのかを決定する、実質的に「窓」といえます。こうした実質的には絞りである部分は、正面または背面から確認できますが、異なる角度の光線がどのように「窓」を通ってセンサへ到達するかが重要な役割といえます。

プリズム内部表面の、ダイクロイックフィルタの角度に依存するシェーディングを最少限に抑えるためには、レンズからの光線はプリズムの表面に対しできるだけ垂直でなければいけません。これは、光学設計の段階で、出射する瞳孔部を実際にプリズムから遠くへ移動させることで実現します。

単板式カメラでの撮像では、レンズ瞳孔部の射出位置は重要な役割がないので、標準的なレンズでは特定の光線角度を実現するようには最適化されていません。このような設計上の複雑さやレンズ部品の追加や大型化は、レンズの価格を上げることになりますが、顧客にとってはこれといったメリットはありません。ですが、もし標準的なレンズをプリズムカメラに使用すると、光線はプリズムの表面へ比較的大きい角度で入射することになります。故に光線はある程度の量透過せず、結果、その光の周波帯域の色は局所的に暗くなり、明らかな画像内の色グラデーションの原因となるのです。

Color-gradients-from-waveband-refraction
ダイクロイックフィルタの入射角に依存した標準的なレンズ(左)と多板式プリズムカメラ用レンズ(右)の色グラデーション

最新の多板式プリズム専用のレンズにおいても、僅かな色グラデーションは発生します。JAIでは残存した退色要素を確実に無くすため、シェーディングコレクションというカメラの内蔵機能を実行し補正しています。この補正方法は、三色それぞれのチャンネルで光に対し、フラットで均質なレスポンスとなるよう設計されています。

焦点面の検討

ところで、対応しなければならない画像品質要素はカラーシェーディングだけではありません。光線は、異なる物質間を透過する際、その波長に基づいてそれぞれ異なった反応を示します。これは、スペクトル・チャンネル毎に異なる焦点距離を作り出しています。最適化されていないレンズを使用すると、別の周波帯がぼやけたりずれた位置に表れます。特にレンズが可視光と近赤外のイメージング両方に使用されている場合によく見られます。

レンズが異なる波長を同一の焦点面で合わせられない現象を軸上色収差と呼びます。JAI製品 Apex、Fusion、Fusion Flex-Eyeなどの多板式マルチカメラで、この収差が大きいとき、全チャンネルに渡って鮮明な画像を再現することは不可能となり、可視光のいずれかあるいはNIRのチャンネルの焦点が合うと、他のチャンネルの焦点が合わなくなります。

Longitudinal-chromatic-aberration軸上色収差

他には、重要な収差として倍率色収差があります。この収差の場合、異なる波長の光線が微妙にずれた位置に表れ、被写体の周囲にぼんやりとした光の干渉によるフリンジが形成されます。周波帯により倍率が異なるため、フリンジ効果は画像端部ほど目立ってきます。

JAIでは全てのプリズムカメラのセンサ位置をピクセル以下の精度で一致させるよう努力してきました。ですので、このような精密なセンサの調整を打ち消し、各チャンネルの光学的シフトを生じさないレンズを選ぶことはとても有益なのです。ですが、この現象は軸上色収差とは違い、ある程度までならばソフトウエアによりイメージのディテールをそれほど消失することなく補正できます。このJAI取得特許を搭載したカメラを詳しく知るには、弊社プロダクトエンジニアまでご連絡ください。

Lateral-chromatic-aberration倍率色収差

正しい組合せを見つける

マシンビジョン用のプリズムカメラを選ぶ際、一般的には、特定の用途に、より高精度で全体的により高画質の実現を希望しているか、またはそれが要件となっていることがほとんどです。そのため、端部まで鮮明な画像を提供する、最適化したレンズと組み合わせることはとても重要です。JAIのプリズムに最適化したレンズは、安定したMTFとバランスのとれた輝度をセンサ全体に提供するよう設計されています。

また、重要なことですので改めて言及しますが、光学機器の世界では完璧なレンズというものはありません。さまざまな収差の程度は低減することはできますが、完全に排除することは不可能です。最終的なレンズの選択は通常、利便性と要求事項とのトレードオフとなります。では、用途を考えると何が一番重要となるのでしょうか。カラーシェーディングの少なさなのか、各チャンネルでシャープネスが高い事なのか、全部の波長帯域でピクセル精度のイメージマッチングなのか、総費用を低くしたいか、など疑問が浮かんで来るのではないでしょうか。 ご検討の際には弊社のプロダクトエンジニアがお手伝いしますのでお気軽にご相談ください。

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